中食のニューノーマル ~日本と中食業界の変化~

日本の人口は2018年の1億2800万人がピークで、それ以降は減少が続いています。単純に人口が減っているのではなくて、乳幼児の死亡率の低下や医療の高度化により平均寿命が伸びる「長寿化」が同時に起こっており、人口の構成が大きく変化していると言われています。

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・持続可能な社会の実現に立ちはだかる栄養課題

持続可能な開発目標「SDGs」は2030年までに多様性と包摂性のある社会の実現にむけての17の目標が揚げられています。その中の「目標1:貧困をなくそう」「目標2:飢餓をゼロに」「目標3:すべての人に健康と福祉を」「目標14:海の豊かさも守ろう」「目標15:陸の豊かさも守ろう」は食に直結した目標になります。

現在どの国や地域でも何らかの栄養課題が存在 しており、 多くの国は 「栄養不良の二重負荷」 に直面しているようです。 栄養不良の二重負荷とは、 肥満や生活習慣病およびその予備群である栄養過剰(営業過多)が懸念されている人と、 やせ、拒食、 低栄養など栄養不良が心配される人の両方が、 同じ国や地域、世帯内に混在しています。

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日本には飢餓は無いと想われる方は多いのではないでしょうか。しかし、現実はちがいます。その日の食事に困っている相対的貧困層の世帯は2015年の調査において15.6%に及ぶそうです。つまり7世帯の内1世帯が相対的貧困層ということになります。

1975年 (昭和50年) ごろの食生活は、世界から高い評価を受けており、「日本型食生活」 と呼ばれています。 経済成長とともに、医療も 高度化し世界一の一時期長寿国となりましたが、肥満や 生活習慣病の増加などの過栄養も大きな課題となっています。 社会の成熟化とともに国や地方自 治体、そして多くの企業も「健康・安全・安 心」を掲げ、健康増進を図ってきていますが、 2017 年の厚生労働省「生活習慣病対策に関する最新の動向」によれば、「生活習慣病」は死亡割合 の「約6割」を占めており、日本の疾病構造は感染症 から、がん、心臓病 脳卒中 糖尿病等の「生活習慣病」へと変化しています。 生活習慣病は、 運動、休養、 喫煙等もその発症・進行に関与しますが、食事の質、飲酒の量・回数の影響は 大きいと言われています。

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・食品消費の変化

農林水産省農林水産政策研究所「我が国のいる。 摂食嚥下障害は要介護高齢者の食料消費の将来推計 (2019年版)」 によれば、 2015年との比較で、 2030年は入口が8%減 少するが1人当たり支出額が増加すると見込まれ、食料支出総額は横ばいとの予想です。 生鮮食品 加工食品・外食割に 帯類型別の支出割合を見ると、 単身世帯では、 生鮮食品および外食 は減少し、 加工食品の支出割合は、 2015年 は50%、2030年は58.6%になると予想されています。

2人以上世帯では外食と加工 食品が増加しますが、生鮮食品への支出 は、2015年は30.2%、2030年は 26.4%へと減少し、 総世帯では、外食と生鮮 食品の支出割合が減退し、 加工食品が2015年 21%から2030年 56%に増加すると予測 されているそうです。 外食はわずかな減少にとどまり、 生鮮食品は加工食品へと置き換わる傾向 が見られています。 この統計では、 生鮮食品と外食 以外を加工食品としており、 調理食品だけで はなく、油・調味料、菓子類、飲料も含まています。

高齢世帯では、調理そのものが肉体的に難しくなり、また単身世帯の場合、 調理しやすい分量で料理を作ると、 1回調理 したものを何食も食べ続けることになることや、少量の揚げ物などは買ってきた方が手間 も費用も節約できるため、 惣菜の利用が多く なることを予想しています。 高齢世帯・単身世帯の食品消費がこれ からの食ビジネスに大きな影響を与えると考えられる。

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・長寿化への対応

2019年における日本人の平均寿命は、男性 が81.41歳、女性が87.45歳となり、男女とも に過去最高を更新しました。 しかし自立して生活できる年齢を指す 「健康寿命」と「平均寿命」の差はおよそ10 年もあります。 長寿化が進むにつれ、 加齢による咀嚼や嚥下などの摂食機能は低下が起こり、普 通の食事が摂りづらい層は明らかに増加しています。 摂食嚥下障害は要介護高齢者の18%に認められ、そのうちの約40%が家庭で療養していることが報告されています。 摂食機能が低下した対象者は適切な手立てを打たなけ 低栄養となり、健康障害を引き起こしかねな いと指摘されています。 刻む、潰すといった噛む力の低下を補う調理を施したり、 誤嚥を防ぐためにとろみ剤を用いて料理に適度な 粘度をつけたり、口腔内で食物がパラつかな いように、まとまりを持たせるといった、 安全に食べるための食形態への工夫が必要になってきます。
 
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糖尿病や高脂血症、腎疾患などの患者は、 入院経験の有無を問わず、食事 による治療、すなわち食事療法が必要となるこ とが多いそうです。 生活習慣病にかかる医療費が全体 の約3割を占めていることから、 社会保障制 度を持続可能なものにするためには、 健康寿 命を延ばすことが必須と考えなければいけません。
保健指導制度は肥満の軽度改善には つながったものの、血圧・血糖・脂質の改善 は認められず、 国民の健康状態を改善させるためには科学的な根拠にも基づき制度を見直し、必要に応じて改善し、より効果的なものにする必要があることが示されました。教育や指導に加え、生活者一人の体調やライフスタイルに合わせた食事が、難なく手に入る食環境づくりが必要であり、ここに未開の巨大な市場があると考えます。
 
 
 
 
 
・ウィズコロナから見えてくること
 
新型コロナウイルス感染症の拡大により、 関や自治体は生活者には不要不急の外出自由 「密集」を避ける行動、そ して日常生活の買物は3日に1回程度にする ことを要請されました。 飲食店に対しては営業時間 の短縮を、食を扱う小売業には食の供給を止 めないよう継続営業を求められ、 総務省統計局 「「家計調査報告」 によれば、新型コロナウイ ルス感染症により消費行動に大きな影響が見 られた主な品目として、 米、生鮮肉、パスタ 即席麺 冷凍調理食品が挙げられています。
 
日本政策金融公庫 「消費者動向調査 (令和2年7月調査)」によれば、「新型コロ ナウイルスの影響による自宅での調理時間や [数の変化」を尋ねたところ、 調理をする時 間・回数が増えたと回答した人の割合が、 男 性では23.3% 女性では42.4%であり、減っ たと回答した人は男性では2.7%、 女性では 2.5%で、 特に40代女性では、 53.9%が 調理をする時間・回数が増えたと回答し、減 ったと回答した人は1.0%にとどまったそうです。 また「何に配慮して調理をするようになった か」 という質問に対し、「健康に配慮して調理するようになった」77.0%、「食費の節約に配慮して調理するようになった」47.0%でした。
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買い物の頻度が低下すると品質保持が難しい中食(惣菜)利用は減少します。自宅にいる時間が増えることにより調理する時間を確保することが出来るため、調理時間の短縮を目的とした中食利用も減少したと考えられます。また外出制限がされる中、お好み焼きやたこ焼き、菓子等を作るため、小麦粉がよく売れたことを考えると、「ともに 調理すること」が家族のコミュニケーション の手段となったことがうかがえます。 また先行 が見えない中で、 生活にかかる費用を抑え 「生活防衛資金」を貯める傾向が見られ 食品の利用を控えたとも考えられます。
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生活に目を向けると感染拡大防止のた めにテレワークが拡大しました。企業においては、 働き方改革関連法の施行により、テレワーク の重要性は認識されていましたが、大規模な実行には至らないのが現状でした。テレワークとは、 自宅で働く在宅勤以外 にも、移動中や出先で働くモバイル勤務、本拠地以外の施設で働くサテライトオフィス も含まれます。 しかし実際はオンライン会議 ツールを活用した在宅勤務が主流と言われています。 オンライン会議ツールの活用により、移動時間を考慮する必要がなくなり、居場所の制約 もなくなりましたが、感染症拡大によ り、家族全員が長期間家庭内にとどまるとな ると、精神的な負担も大きくなり、 その結果、 食事の準備も嫌になるかたも増えたのではないでしょうか。
 
 
テレワークは在宅勤務ではなく、 サテライ トオフィス的な住居の近くに第二の場である 仕事場が、必要と考えられるのではないでしょうか。 これまで、駅前 やオフィス街にその多くがあったコワーキン グスペースのようなものやホテルなどが、居住地に必要に なってくるのではないかと考える。 それに従い、これまで社員食堂等を利用していた勤務 中の食事も第二の場で取ることになり、ここ にも中食の市場拡大の場が出現する可能性が眠っています。人口減少によって市場が縮小する中、内食のために「食材」を売っていた小売業は、 惣菜に力を入れ、 食品製造販売業を兼ねるようになり「食事」を売るようになりました。そしてイートインコーナーを設けることにより「食事時間・空間」を売り、 外食産業市場規模に計上されない「外食市場」を創りだしています。 感染症拡大により、 外食産業の多くは、 デリバリーやテイクアウトなどの中食事業に参入し、内食・中食・外食』 のボーダーレス化はさらに加速したと考えられます。
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6. 地域コミュニティと食
 
働く場所や時間などの 「働き方」に変化が生じることにより、 住居を置く地域のあり方にも変化が生じる。 仕事を終えて 寝に帰る場」から「仕事をし、生活をしていく場」へと変わっていくと想像されます。「地域と食」 という言葉を聞くと、観光や農業の6次産業化をイメージする人も多いと思いますが、住民の日常の食生活に重点をおいて考えると、人口減少下のコミュニティのあり方として、国は複数の集落が集まる小学校区のような基礎的な生活圏の中で、 分散している様々な生活サービスや地域活動の場などをつなぎ、人やモノ、 サービスの循環を図ることで、 生活を支える新しい地域運営の仕組みを作ろうとしています。これを国は「小さな拠点」と名付けているそうです。
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また 2030年よりもさらに先の超高齢単身世帯社会が到来する2050年の日本を見据えて、 日常生活を支えるプラットフォームとなる 「集いの館」を中心としたコミュニティ構想を発表されており、 小学校区くらいの小さな単位で、食を変える仕組みや相談できる機会、自由な交流の場を有する施設が必要であると言われています。
 
日常の食生活の質を保ち、さらに向上させるためには、ライフスタイルや所得に合わせまた、食品の購入方法、買い物に行く交通手段公的な施設の活用を考慮しながら、まちづくりを進める必要があり、そのためには住民も、従来の受け身の姿勢ではなく、自発的にまちの課題解決に取り組んでいくことが期待されています。
 
厚生労働省はスマートライフ・プロジェクトとして「健康に関心のない人たちも含め誰もが自然に健康になれるような社会づくり」の観点から減塩や野菜摂取量の増加を的とした食品やメニュー開発等、 「食環境整備」への取り組みを推奨されています。
 
 
生活者が生活習慣病を予防し、健康を維持するためには、健康教育も必要であり、食育によって自分の身体に合った 「食を選択する力」を向上させることも重要ですが、たとえ生活者の力が不十分であっても、フードシステム全体、すなわち農水産業、 食品メーカ一、 流通・小売業、 外食・中食産業が、健康的な食生活を提供できる環境を積極的に実現することによって、生活者の食生活は向上すると考えられています。
 
 
 

参考文献:中食2030 一般社団法人日本惣菜協会